「なじらね」を考察する | ||
初掲:2000/10/14 追記訂正:2007/11/18 |
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古語に見られる「なじらね」 「なじらね」は、長岡及び中越を中心とする広く新潟県一帯で使われる挨拶言葉であり、 日本語で言うなら「ご機嫌は如何ですか?」とか「どんな感じですか?」と言う意味の言葉ですが、 英語で考える、「How are You Feel ?」「How are You doing?」のように 「How are You ○○?」の方が、より巧く説明できる言葉です。 さて、「なじらね」は方言ではありますが、他の長岡弁同様、その語源は古語に求められます。 誰でも知っている日本最古の物語、「竹取物語」の中に次のような表現があります。 ~~「なでふ心地すれば」~~(何ほどの気持ちがあって) ~~「こはなでふ事のたまふぞ」~~(これはまあ、なんと言うことを仰るのですか) また、紫式部日記の中にも以下の表現があります。 ~~「なでふ女か真名書は読む」~~(どのような女性が漢詩を読むのでしょう) 竹取物語にしても紫式部日記にしても書かれた年は不詳ですが 竹取物語は平安時代前期(800~900年頃)、紫式部日記は1010年と推定されております。 これにより、長岡に「なでふ」が持ち込まれたのは、 平安期(794~1185年頃)ではないか?と言う仮説が成立します。 長岡市史に照らし合わせますと、畿内の豪族や貴族または寺社の荘園支配下にあった 時代と一致しますので、この時代に支配層から持ち込まれたことは間違いないと思われます。 「なでふ」は「なじょう」と発音します。 これは「てふてふ」を「ちょうちょ」と発音するのと同じです。 「なでふ」(なじょう)は「どのような、なにほどの」の意味で、 「なでふ」は「なんでふ」(何という→なにてふ→なんでふ)の「ん」が省略されたものです。 また、この「なんでふ」の発音は「なんじょう」であり、漢字で書く場合は「何条」です。 語源からも用法からも、まさに英語の「How」ですね。 さて、長岡弁においては 「なじらね」に返す言葉として「なじょも」と言う物があります。 「なじらね?」=(どうだい?/どんな感じですか/いかがですか?) 「なじょも 」 =(いえなんともありません/お気遣いありがとう)のような意味です。 つまり、「なでふことあるか?」と聞けば「なじらね?になり 「なでふこともなし」と返せば「なじょも」になるわけです。」 この二つの言葉から考えるに、「なじらね」「なじょも」の基本形は 「なでふ」(なじょうもしくはなんじょう)が変化した「なじょ」や「なじ」で これ一言で「How (どう)」に相当した何かしらの状況を表す言葉。 「ら」は長岡弁に良く見られる「だら化」(=だ→らに変化する)で変化した「だ」 最後の「ね」は、相手を尊敬したり気遣うときに語尾に付ける「ね」 これを合成して「なじらね」は「どうですか?」に 「なじょも」は「特にどうと言うことはありません」に、なるわけです。 実際、仲が良い間柄や目下には「なじらね」ではなく「なじら?」とぶっきらぼうに聞いてみたり、 女の娘が「この服、どぉ?」と聞くように「なじ?」と可愛く発音されてみたりしますので、 「なじ」が、「なじらね」の正味である事は間違いありません。 また、一部地域ですが、「なじらね?」を「なじょかのぉ~」などと使う場合もありますので、 「なじらね/なじょも」の語源は「なでふ(なんでふ)」事は疑う余地もありません。 しかし、「なじ?」(語尾上がる)「なじ。」(語尾下がる)と言う会話は存在せず、 「なじょも」は「なじょも」以外に変化系がないと言うことに少し疑問は残りますが、 蜻蛉日記(975年)の中で「なでふ」は、「なでふことかおわしまさむ」と 「どういうことがおありでしょうか(いやあるはずがない)」と、 問題がないことを祈りながら疑問する用法がありますので 「なじらね」は質問者の気遣いの仕方によって様々な変化系があっても 「なじょも」は各種の気遣いに対する納得含みの常套句。として 特段の変化系がないのではないでしょうか。 ※2007/11/18追記 「だら化」の説明に対し「短すぎる」とか「こじつけである」と言うコメントが寄せられましたが ほとんどは県外の方々からでした。 新潟県人であれば「だら化」現象は自らの常用語なので なんの説明もなく納得されますが、県外の方からは奇異に見えるようです。 新潟県域においては、断定を示す「○○だ」が「○○ら」に変じたり 「~~だろう」と推定する言葉が「~~らろう」に変じたり 「~~なのかね?」の意味の「~~だかね?」が「~~らかね?」と変じたりします。 これを私は「だら化」と称しています。 「なじらね?」の「らね?」の部分は「だね?」のだら化によるもので、 実際、「なじらね?」は「なじだね?」と使われることも多いです。 「なじらね」は、なじらね?(笑) おそらく、「長岡の方言と言って思いつく物は?」と聞けば、 間違いなく首位に上がるだろう「なじらね」 我々がもっとも愛してやまないこの言葉は、 こんなにも悠久の長い歴史を経てきたすばらしい言葉です。 そして、これほどまでに蘊蓄の語れる方言が他にあるでしょうか? さぁ、今日からは誇りを持って使いましょう。「なじらね?」と。(笑) |
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